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黒島のお話1

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僕は、日常生活で喫煙をすることはない。

若い頃に重めの肺気胸を患い、それでも放置しておいて自然治癒した。

そのことへの憂いもある。

でも時折、誰か一緒の人が居る時だけ、ご褒美に煙草を吸う。

貧乏性な自分は、両手が潰れて、他に何もしようがなくなった時にこそ、強く休憩の実感を得られるからだ。

煙草は、極小の焚き火。

炊き出し活動の日、準備した45食のお弁当を配り終え、終了の時間も迫ってくる中で、

コーヒーのお代わりを求める人に、ゆっくりと、コーヒーを落としていた。

開け放した玄関の引き戸の向こうに、青い海が見える。

しかし、その手前には、3月下旬に見た時と代り映えの無い、震災ゴミの集積所がある。

もう少し、今の気分のままに、海を見たいと思った。

玄関を出た軒先に灰皿が設えてあって、男性が煙草をくゆらせていた。

 

「おっ。仲間が来たかな」そう笑って僕に声をかけた。

 

僕は灰皿の隣に座った。

 

僕には手持ちの煙草が一本も無い。

気付いた男性が、僕に煙草を恵んでくれた。

 

「一番、安い煙草よ。1mm。でも避難所の皆が吸ってる煙草だから、仲間やな」

 

心からおいしい、一服だった。

目の前にゴミの集積所があり、その向こうに、美しい海が見えた。

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