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ぼくと杉野さん

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古い建物が好きだから、

そして、そこでの暮らしを空想するのが好きだから、

古い建物を手に入れて、そして自分たち自身で、手を入れようと思った。

【森と小川の借り暮らし】と銘打って、ひたすらにDIYを繰り返す日々だった。

はじめてのことばかりだったし、思ったよりも進まないし、思ったよりもはるかに、お金はかかるし、

​好きで始めたことだったけれど、しんどいし、不安だった。

そんなある時、偶然に、スマホの画面の中に、同じようにDIYに勤しむ男性の記事を見た。

しかも、自分の大好きな能登、輪島市の黒島集落で、古い建物を直して、ゲストハウス開業を夢見ている。

安定した公務員の職を捨て、自分らしく生きるために、夢を追っている。

赤裸々に悩みや葛藤を綴る姿勢に、僕はすっかり愛読者になった。

自分がお店を始めた時のことも思い出し、勝手に仲間ができた気分だった。

一度も、コンタクトを取ったことはなかったけど。

 

2023年12月31日のブログも、楽しみに読んだ。

それは、ゲストハウス開業に向けての一年間の努力をまとめたものだった。

売買契約書を交わし、残置物を片付け、一級船舶免許を取得し、毎月イベントを開催し、

ゲストハウスのコンセプトに悩んでは、ホームページ作りをやり直す。(笑)

なんと年末には、バーカウンターに据え付ける欅の1枚板を譲り受け、

元日からも休みなくDIYの予定が詰め込まれていた。

ブログの最後には、一年間の感謝と共に、

【前に進む勇気をいただき、本当にありがとうございます】と読者へのメッセージが記されていた。

いえいえ、あなたの記事を読んで、勇気をいただいているのは、こちらの方ですよ。

2024年の3月には公務員を退職し、6月にはゲストハウスの開業の予定。

これまで、あなたはこんなに頑張ってきたんだ。きっと、全部が報われる一年になるよ!!

夢が全部実現する、そんな一年が、明日から始まるよ!!

そう思い、ブログを閉じた。

そして翌日、

一年の始まりの日に、あの地震が起きた。

ゲストハウスになる予定だった建物は、

杉野さんが数ミリの誤差を気にしながらDIYを続けてきた建物は、

何センチも傾いて、もう、使えなくなってしまった。

夢の絶頂から、真っ逆さまに叩き落された経験が、自分にもある。

憧れのマイホームが、ある日、ただの大きなゴミになった。残ったのは、莫大な借金だけだった。

他人事じゃないぞ。

そう思った。

僕はその当時、他人を憎むことか、自分が死んでしまうことしか考えていなかった。

でも杉野さんは、震災直後から黒島復興応援隊というボランティア組織を立ち上げ、

​一日の休みもなく動き続けた。集落の人々の為に。

 

そして、とある新聞記事で語っていた。

「自分は、色んな人と関わりたくてゲストハウスを志していた。

でもその夢は、こうしてたくさんのボランティアさんと関わることができて、

叶ってしまったのかもしれません」

記事の写真の中で、彼は、笑っていた。

・・ボランティアに行こう。

何一つ役に立てないかもしれないけれど、この人のところに、何か手伝いに行こう。

気が付いたら、初めてのDMを、僕は彼に送っていた。

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